書評:トコトンやさしいエントロピーの本

書評

あらやだ、本当にやさしい

本書は、物理・化学でいうところの「エントロピー」について、数式を極力使わずにわかりやすく説明してくれる。

私も学生時代、熱力学の授業か何かで「常に増大するもの」と習った事は記憶しているが、正直なところ
「いつの間にか部屋に埃がたまってくるのは、エントロピーが常に増大しているからだ!」
なんて言って、理系の知識がない人を煙にまく程度の知識しか持ち得ておりませんでした。

この本はイイ。わかりやすい。

まずは概念からしっかりと教えてくれる。それから身近な現象や技術をエントロピーを使って説明してくれるので、割と目からウロコが落ちる思い

自然現象は、一方向にしか変化しない

例えば、熱いお茶を入れて常温の部屋に放置しておくと、いつの間にか冷めている。

氷を常温の部屋に放置しておけば、溶けてしまう。

周囲の熱をお茶が吸収して勝手に熱くなったり、空気中の水分が勝手に集まって氷になったりはしない。

自然現象の方向性は、いつも定まっている。

エントロピーを使えば、この方向性が統一的に理解できる。

そう、自然現象は、必ずエントロピーが増大する方向に変化する。

エントロピーは、常に増大する。

なぜ増大するのかって?
本書は、その質問にも明確に答えてくれる。

実は、それは、わからなくていいのです。自然現象に方向性があることは、経験的に誰もが知ってはいますが、それを証明した人はいません。だから、全体のエントロピーがなぜ増大するのかを論理的に証明できる人はいないのです。

自然現象だけではなく、人為的な変化、例えば鉄鉱石から鉄を作り出す工程も、このエントロピーの考え方を利用している。

というよりも、どんな科学技術でも、全体のエントロピーを減少させる事はできない

水に溶けるものと溶けないものがある理由も、エントロピーで説明がつく。

うーん、小難しい数式で理解していたことが、文章でこうすんなりと頭に入ってくるんだなあ。

これから熱力学を学ぶ人は、教科書の前にこの本を一読しておくと、理解が数倍早いのではないかと思う。多分。

概念的な理解は大切ですよね

まずとっかかりとなる概念を理解してから、教科書的な知識に触れるのが一番効率がイイ勉強法だと思う。

エントロピーの教えてくれる事は、難しい言葉で言うと「熱力学の第二法則」なのだが、少しでもとっかかりがあると理解の速度と深さが違う。

もっとも、とっかかりだけで終わってしまうと、熱力学の第一法則(エネルギー保存の法則)と錬金術漫画の「等価交換」をごっちゃにするような、似非科学に堕す可能性もゼロではないが。

その点、具体例を多く説明してくれる本書なら、誤解なく知識が深まると思う。
この現象もエントロピーで説明がつくのね、なんて気づきもあった。

物事の本質を学びたい人にはおススメの一冊。

エントロピーは、普遍的な概念であり、個々の現象を注意深く見て、そこから人間が掬い出した本質なのです。いったんエントロピーのとらえ方を習得すれば、一見無関係な現象を統一的な観点からとらえることができ、どこが普遍的でどこが個別的なのか、それがわかることになるのです。それが「本質をとらえる」ということなのです。

Easy oar.

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