タイトルで誤解しそうですが、真面目な生物学の本です。
決して出来損ない男のダメダメ人生や、ダメンズに騙されるおバカな女性についての本ではありません。
「生物とは何か」なんて哲学的な見方も広がる、凄く面白い本でした。
もっとも、面白い本でなければ、めんどくさがりな私がわざわざ書評など書くはずもないのですが。
さて、この本の主張はシンプルで…
生物の「基本仕様」は女(メス)であり、男(オス)は「できそこない」である
「できそこない」とまで言ってしまうと、さすがに言いすぎかもしれませんが、言葉を選ぶと「亜種」「カスタムタイプ」ってとこでしょうか。
ヒトは女が基本仕様であって、男はヒト亜種なのです。
地球に生物が生まれてからしばらくの間(…そう、10億年くらいかな)は、生物の性は単一で、その全てはメスでありました。
古代生物は、自分ひとりで子孫を作る事ができたのです。
今でもそれができる生物は結構残っていて、身近なところで言うとアブラムシ(アリマキ)。
植物の裏について甘い汁をチューチュー吸う憎たらしいヤツらで、ガーデニング愛好者ならこいつらの爆発的な増殖力に悩まされた事は少なからずおありでしょう。
アブラムシは基本的にメスしかいません。
カノジョたちは、自分のクローンのような娘をポコポコ産んで増えます。
しかも、生まれたての娘の中にはすでにその娘(親から見れば孫)が宿っており、娘もすぐに娘を産んでいきます。マトリョーシカかよ。
つまり、アブラムシを駆除するためには、一匹たりとも残してはいけないのです。
手作業で物理的に駆除するのは、もはやムリゲー。
「メスだけ増殖」の長所と短所
全滅させたつもりが二日もすれば植物全体に広がってしまうアブラムシでわかるように、このような「メスだけ増殖(単為生殖)」は非常に効率的ですが、その一方で弱点もあります。
遺伝子が他の遺伝子と交雑しないので、「同じ弱点」をもつ個体ばかりが増えたり、種としての進化が進まなかったりします。
しかしこの単為生殖のシステムにはひとつだけ問題点があった。自分の子供が自分と同じ遺伝子を受け継いで増えていくのはよい。しかし、新しいタイプの子供、つまり自分の美しさと他のメスの美しさをあわせもつような、いっそう美しくて聡明なメスをつくれないという点である。環境の大きな変化が予想されるようなとき、新しい形質を生み出すことができない仕組みは全滅の危機にさらされることになる。
実は、アブラムシは秋ごろ、オスを産みます。
そしてオスは冬が来るまでの短い間、全力でなるべく多くのメスと交尾して、遺伝子を交換します。
アブラムシは、単為生殖の効率化と、その問題点をこういうシステムで解決しているわけです。
アブラムシの他にも、アリやハチなどはほとんどがメスで、しかも女王だけが子供を産むという完全分業システムです。
オスのハチやアリもいますが、交尾以外に仕事はありません。
一件うらやましいようでもありますが、用が済んだら巣から追い出されて凍死する種とか殺されたりする種もいるので、それほどでもありません。
人間も含め、生物としてのオスの役割は、遺伝子を交雑させる事、ただそれだけなのです。
Winter is coming.
人間はまず女として生まれ、男に分岐する
受精卵が人間の形になるとき、基本は女なんだそうです。
いやあ、この本勉強になるなあ。
生命の基本仕様である「女」から、どのように「男」にカスタマイズされていくか。
母親の胎内で起こるそのメカニズムは、本書の第6章に詳しいです。
私が衝撃的だったのは、女性器を縫い合わせて男性器を作るという工程がある事。
男性ならば、言われれば気づくはず。その証拠となる「縫い目」が、自分にもある事に…
アダムがその肋骨からイブを作り出したというのは全くの作り話であって、イブたちが後になってアダムを作り出したのだ。自分たちのために。
男性は、女性の体を無理やりカスタマイズしたために、平均寿命が女性より短く、ガンにもなりやすい。そう考えると確かに納得ですわ~
生命に関する様々な知識が得られるだけでなく、文章もとても面白い一冊。文学的な科学本。哲学的ですらあります。生物好きならぜひ!
あと、同じ作者の「生物と無生物のあいだ」も良書なのでおススメです。
Easy oar.
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